第2話 亜流危機一髪!?


バァン…!!


「えっ…?」


一瞬だった。


何が起きたのか分からないまま気がついた頃には目の前に地面があった。


「亜流、あんた劣ったわね」


「だ…れ…?」


起き上がってそれを確認しようとする。

…が。


「っ…!?」


腹部に鋭い痛みを感じてふらつき、再び倒れ込んでしまう。


やっと気づいた。


私は撃たれたのだ。


銃で。


起き上がろうとして視界に入ったのは血にまみれた自分のお腹と、私と同じ星海高校の制服を着た黒髪ツーサイドアップの少女が銃を持ち目の前に立っている光景だった。


「一体どうしたらそう弱くなるわけ?このくらいの弾も避けられないなんて…つまんない」


少女はさっきからブツブツと一人で何かを言っている。出血している腹部を手で抑えながら私はなんとか口を開いた。


「な…にを…誰…?」


すると少女は驚いたような表情を浮かべた。

それから不思議そうに言う。


「誰って…殺女(あやめ)よ、あ・や・め。あんたどしたの?まさか油断させて攻撃する作戦でも仕組んでるんじゃないでしょうね?辛そうにしてるのも演技とか?」

「演技…じゃ…な…」

「死神の私を騙せるなんて思わないでよね。使者、心音亜流(ry(いかりゃく)」

「はい?」


彼女は私を知っているようだった。

しかし私は彼女を知らない。


…もしや新種のオレオレ詐欺?


それに撃たれてるんだから演技とかじゃなくて普通に辛いの分からないのかな!?


あと死神って何?使者って何?

もしかしてこの子厨二病?


私の名前の後に(ryってつけたのも意味わかんないんですけど!あだ名?それあだ名なの?

(ryってとこにアホの子、つるぺた、運動音痴みたいなのが略されてたりするの?


つるぺたが含まれてるなら貴女もですよ!!


ツッコミどころが多すぎる…。

そして脳内でいちいちくだらないツッコミを入れている自分にもツッコミたい。(謎)


私が一人脳内ツッコミをしている間、目の前の少女はひたすらさっきみたいにブツブツと何かを言い続け勝手に話を進めている。


彼女は一体何者なのか。


そんなことをぐるぐると考えているうちに意識が薄れてきてしまった。


やばい…真面目に死ぬ…。


「まったく、バレバレよ…って、え?亜流?演技にも程があるわよ?………亜流!?」


殺女と名乗る少女は私の体を揺さぶりながら何やら慌てふためいている様子だった。


「しっかりして!死ぬなぁ!!」


ペシッ!ペシッ!


虫でも払うかのようにして私の頬にビンタを繰り返す。


いや、撃ったのは貴女だし撃たれたのだから死にかけても無理はないでしょ?


そう言いたくてももう声も出てこない。


私は無様にもその場でただ魚のように口をパクパクさせているだけだった。


やがて意識は途切れた。


「困ったわね…まぁ、いいわ。亜流だし」


―――――――――――――――――――――――――


「…ん。」


目が覚めた。


寝ていたのだろうか。

何故だかよく覚えていない。


「え…?」


違和感に気がついた。

起き上がって辺りを見回す。


「ここ…どこ?」


知らない場所だった。


でこぼこした石だらけの道。

ゆらりと流れる川。


それがずうっと続いているだけで他は何も見当たらない。人もいない。


「誰か…」


そんな場所でも誰かに、人に出会えることを願って歩き始める。


ガラガラガラッ!


「っ!?」


ふと、何かが靴に当たった。

と同時にそれは崩れていった。


積み上げられた石だった。


「これは一体?…な…っ!?」


驚愕した。


さっきまではなかったはずなのに地面には積み上げられた石の塔がそこら中に出来ていた。


それに気づくと同時に浮かびあがってきた。


何がかって?


私もよくわからない。

強いて言うなら人のようななにか。

それが複数ある石の塔一つ一つのその前に。


モヤのかかった"ソレ"は地面にある石を拾うと塔を作るように積み上げていった。


その光景はまるで三途の…


ガラガラガラッ!!


再びそんな音が聞こえた。

また一つ石の塔を崩してしまったのかと思って足元を見た。


私じゃなかった。


「あははは…っ!きゃははははは!」


目の前で緑髪の小さな女の子がそれを蹴って遊んでいるようだった。


環境のせいか、とても不気味に思えた。


「あれ?お姉ちゃん新入りー?」


「ひっ…」


女の子が振り返る。

私は地面に尻餅を付いた。



彼女には左目がなかった。



おまけにその左目から血を流している。


「じゃあ石積まなきゃだねー?ほらほら、そこに座って?」

「ひいっ!い、いやっ…!!」


小さいのに力が強い。

恐怖で半泣き状態になりながら女の子に背中を押され強制的に地面に座らされた。


「遠慮はいいからー積み終わったら助けてあげるよー?」

「遠慮とかしてませんしっ!?ただ単に嫌なだけ…じゃなくて、やりたくないだけですし!…ってどっちも一緒か…」


混乱して次第に頭が回らなくなっていく。

ついでに眩暈がする。


「なーに一人でブツブツ言ってるのかなー?積み終わったら助けてあげるって言ってるんだよー?」

「え?助け…?」

「うん!ここから帰してあげる!」


あの場所に…私の住む街に帰れる…?


その言葉に期待を抱いた。


「…本当?」

「ほんとだよー!…んんっ!?」

「え?ぶっ!?」


女の子は突如、私の頬を両サイドから手のひらでサンドイッチした。なんというのだろうか。挟み撃ちした。それから掴んで引っ張ったり縮めたりを繰り返しはじめた。


なっ、一体なに!?


「いひゃいいひゃい~!(※痛い痛い~!)」

「あ~!りゅんりゅんだー!!」

「んっ!?」


りゅんりゅんとは私のあだ名である。

それを知っているのは確か中学の頃の旧友くらいのはず。何故この子が知っているのか。

というかそもそもなんで私のこと知って…


私は彼女を知らない。

彼女は私を知っている。


デジャヴを感じた。


ハッキリ覚えてはいない。ただ、前にも似たようなことがあった気がした。


混乱している私をよそに女の子はただただ楽しそうに私で遊び続けている。


「ちょこころねー!!」

「あひゃひはここりょねでしゅ!!(※私は心音です!!)」


――――――――――――――――――――――――


「はぁ…はぁ…た、助かった…」

「きゃはははは!やっぱりりゅんりゅんで遊ぶのたーのしー!」

「私はおもちゃじゃありません!」


数分後、女の子はやっと私の頬を掴む手を離してくれた。心無しか顔の筋肉が柔らかくなって表情豊かになった気がする。


「危うくちぎりパンになる所だったよ…なんで私のこと知ってるの!?」

「りゅんりゅん?物忘れー?認知症ー?」

「高校生で認知症になってたまるかっ!!」


いや、まぁ中身は422歳ババァですが…

というかババァ以前の問題?


そういうことはおいといて。


「ねぇ、本当に石積んだら帰してくれるの?」

「もちのろーんだよ!んー、そうだなぁ、じゃあ石を10個積み上げたらね!」

「えっ、10個?それだけでいいの?」

「うん!そーだよー!」


思っていたよりずっと少なかった。


「…よし。」


積んでやろうじゃないか!!


私は目の前の石をかき集めて積み始めた。


―――――――――――――――――――――――――

「ぎゃあああああ!」

「あはははははっ!」


なんということでしょう!

完成まであと一個というところで女の子は私が積み上げていた石を勢いよく蹴り飛ばしてしまいました!あと一個というところで!!


「はーい!りゅんりゅんやり直しの刑ー!」

「なんで崩しちゃうの!?鬼か!?」

「鬼だけどー?」

「いや認めるんかーい!」

「もちろん!」

「え?」


予想外に認められた。


次の瞬間。


「そーれ!」

「わっ!?」


ひゅぅぅううう!


女の子が空へ両手を伸ばした。

すると突如、強風が発生する。

風の中からどこからともなく金砕棒らしきものが現れ、それは女の子の手元へ。


「だってここは三途の川だよ?石蹴りとばすのが鬼である私、暗(あん)ちゃんのお仕事ー♪」


「えぇええぇえ!?


本当に鬼だったとは!


「……えぇぇぇええ?」


でもそんなことってある?


一旦冷静になり疑ってみるも、見る限り不可解な場所でこんな不可解な現象が起こったくらいだ。彼女の言っていることが事実だったとして大して不思議ではない。疑えるはずもない。


そして改めて驚愕する。


「えぇえええええ!?」

「私が鬼だってそんなに驚くことかなぁ?」


あながち間違っていない気もするけど彼女が鬼であることというより、鬼が存在していること自体に驚いていた。


それと、


「三途の川…!」


やっぱりそうだったのか。


異様な雰囲気の場所だったからなんとなくそんな気はしていた。


…あれ?じゃあ私、死んだの?なんで…


ふと、制服に穴が空いているのが目に入った。


「あっ!」


思い出した!

確か変な子に銃で撃たれて…


「死んじゃったんだ…」


しかし、思い出すと同時におかしなことに気がつく。


私、記憶があるまま転生を繰り返してきたはずなのにここに来た覚えが一切ない。


三途の川が存在しているというのならおそらく毎回ここに来ていたはず。


あれ?そもそも今までどうやって転生してたっけ…?前世の記憶も曖昧…?


最初から私に能力なんてなかった?


再び混乱し始める。


忘れていることがあるとこうも落ちつかないものなのか。見知らぬ人に知り合いとして対応されているからなおさら落ち着かない。


早くこの状況をどうにかしたかった私は、あるかどうかすら分からない記憶をひたすら思い出そうとする。


「そうだよー?りゅんりゅんまた死んじゃったんだよー?だから早く石積んで!積んで!!」


混乱している私をよそに女の子は石積みを勧め続ける。

彼女はせっかちな性格なのかもしれない。


「ねぇ、暗ちゃんだっけ?私、前もここに来てたことあるの?」

「なーに冗談言ってるのかなー?もう何回も来てるでしょ?その度にりゅんりゅんは石積んでたんだよー?」

「マジか…」


全く記憶がない。


「とりあえず石積みして?ほらほら!終わったら帰れるんだよー?早く早くー!!」


私がここに来ていた記憶を無くしているだけだったとしたなら、ちゃんと石積みを成功させてきたから今があるってことだよね。


たぶん!


「石…積むしかないか…」

「その通り!りゅんりゅんファイト~!!」

      

いまいち確信のできないまま再び石積みに手をつけようとした時だった。


「暗、お遊びはいい加減にしなさい」


To be continued...