第3話 死神殺女VS使者亜流


「暗、お遊びはいい加減にしなさい」


「あなたは…」


三途の川に辿り着く前、なんの前触れもなく私を銃で撃ち抜いてきた黒髪の少女の姿がそこにはあった。


「あやかちゃん?じゃなくて、あや…ねちゃん?でもなくて、あ!あやめちゃ」

「あーっ!あやおばさ…あや姉に見つかっちゃったー!」

「誰がおばさんですって!?」


殺女ちゃんをおばさん呼ばわりしかけた暗ちゃんが拳で頭をぐりぐりされ、叱られている。

 

「いたたたた…!いたいよぉ…あや姉、怪力すぎるy」


ごつん!


そのまま頭に強く拳を落とす殺女ちゃん。


うわ…痛そう…


おそらく本気でそうしようとしたわけじゃないんだろうけど。


空気が抜けていく風船のように暗ちゃんはその場に崩れこんだ。


「ふぇぇええ…」

「まったく、失礼な子ね。…亜流?」

「はっ、はい!」


2人のやり取りをただ呆然と眺めていた私は唐突に名前を呼ばれ、思わずかしこまってしまう。


「何をそんなに緊張しているのかしら?長年お互いの力を競い合ってきた最高のライバルという仲でしょうに」

「ライバル!?」


殺女ちゃんという存在自体、私の中ではついさっき出来たばかりのようなものですがいつの間にライバルなんかに…?


「ライバル…ライバル?えっとー……んん?」


無くしてしまったであろう記憶の中で私達はライバルだったのだろうか?


「亜流?…まさかあんた、本当に私のことを忘れちゃってるんじゃないでしょうね?」

「えっ、いや、その…」


寂しげな表情かつ不安そうな声で聞いてくるので答えに戸惑ってしまった。

忘れているだなんて言えるわけがない。


「…まぁ、いいわ」


ヒュゥゥウン!!


どうしようかと迷っている内に彼女は話を切り上げると突如、どこから出したのかも分からない大きな鎌をその手に握りしめた。


こんな不可解なことが起きてももう大して気にならない。…でも鎌が危ないものであるということに変わりはない。


「ひぃいいっ!?…って、あれ?本物?」

「何を言っているのかしら?本物よ?」


殺女ちゃんが握りしめている鎌は劇をする時に使われていそうな偽物にしか見えなかった。


紅色の持ち手、ハート型の飾り、刃は白色で着色されたプラスチックのような見た目だ。


「なんなら刃先にでも触れてみる?」

「それは遠慮しときます!」


もし本物だったら…

そう考えると触れたくはない。


「亜流。確かに死人は三途の川に来た際、石積みが必要になる場合もあるわ。今回の亜流みたいに親より先に死んでしまった時。でもそれはあくまで普通の人間の場合。特別、あなたは石積みなんてしなくていいの。暗はいたずらっ子だからあなたにちょっかいをかけてただけよ」


私が困っていたことに関して詳しく説明してくれた。…安心した。


「なーんだ、そうだったんだ~!じゃあ私、石積みなしでもあっちの世界に帰れるんだね!」

「まぁ、そうね」

「よかったぁ」


一気に気が楽になったような気がした。

しかし、ここで疑問が生じる。


「…ん?もしかして私、ここに来ちゃったし天国地獄行き?そんでもって転生しちゃう?…心音亜流としてあっちの世界に帰れない!?」

「あら、あなたの転生を決めるのは神じゃないわ、私よ。あなたは私が特別に任命した使者だもの」

「なぬっ、殺女ちゃんが!」

「そうよ、だから一々天国や地獄に行く必要なんてないの。…そうね、あなたにはまだその姿でいてもらった方がよさそうね。あっちの世界に役目が残っているから」

「役目…?」

「えぇ。亜流、あなたは使者として記憶を維持したまま転生を繰り返し、その度に死を迎えるまでの間、自身が生きている世界を整えないといけないの。今のあの世界にはあなたが必要」

「ほぇぇそうなんだ?」


いまいちよく分かっていないけれど私って使者?で世界にとって重要な存在だったみたい?


嬉しいと思っていいのだろうか。

いや、こればかりは信じ難いのだけど…


なんだか複雑な気持ちになった。


「想定外の死だったから焦ったわよ。役目が残っているというかその様子だと何も達成しない内にここに来ちゃってるんだから」


殺女ちゃんは困ったような呆れたような表情で言った。次第に申し訳ないという気持ちの方がだんだん大きくなってくる。


「うぅっ…ごめんなさい」

「でもまぁ、あなた記憶がなさそうね。ここに来てむしろ正解だったのかも。もしそのまま生きてたら寿命を迎えるまでずうっと役目を果たせず使者としての人生を一つ無駄にしてしまうことになったでしょうし」


どうやら私が一部の記憶を無くしてしまっている(らしい)ことを彼女はちゃんと理解してくれたみたいだ。


「うん。私、自分の役目?もなんにも思い出せてないみたいだし人として人生は楽しめたかもだけど使者?としては残念なことになってた?と思う」


いまいちよく分からないまま口に出したため、疑問形が多くなってしまう。


それでもついていけてない私を置いて彼女の話はただひたすらに進んでいく。


「あなたがここに来る度に死神である私がいつも役目を伝えていたわ。あとで伝え直すつもりよ。あなたには使者として出遅れた分を取り戻すためにいち早くあの世界に戻ってほしいの」


鬼もいるくらいだし彼女が死神だということは理解出来るようになってきていた。


ただ、私が使者であるいうことがあんまり理解できていない。


「さっき言った通り石積みなんてしなくても帰してあげるわ。…その代わり条件があるの」


「え?わぁっ!?」


ひゅるるるるる!


瞬間、強い風が私の頭上を吹き抜けていった。

そして辺りが眩しい光に包まれ、何も見えなくなる。


しばらくしてそれは収まった。


「もう…なんなの?」


私は自分でも気がつかない内に尻餅をついてしまっていた。


「亜流!」


空から名を呼ぶ声が聞こえ、上を見上げる。



「私と戦って勝ってみ・せ・て?♡」




「え」


気がついたら殺女ちゃんは宙に浮いて私を見下ろしていた。


彼女の手のひらから謎の光線のようなものが発射され、周辺の地面に穴が空く。

私は咄嗟に立ち上がって光線を避けていた。


って…


「ええええぇぇええ!?」


唐突に戦うことになってしまった。


よく見ると殺女ちゃんの周りに魔法陣のようなものが複数浮きあがっている。それに彼女はついさっきまで星海高校の制服を着ていたはずのにいつの間にかまるで魔法少女のようなベリーキュートな衣装に変身していた。その姿はアニメや漫画に出てくる美少女ヒロインそのもの。


美少女万歳!!


じゃなくて!!!


いきなりすぎて状況が飲み込めない私はただその場で棒立ちしてしまっていた。


「亜流が私に勝ったら安心してあなたを送り帰してあげられる。役目も安心して伝えられる。だから、ね?」


「お互いがんばろう♡」


殺女ちゃんはウィンクしながら文末にハートが付きそうなくらい可愛らしい甘い声でそう言い終えた。亜流、思わず興奮する。


「うわっ…天使…!?天死神!?」

「うふふ、ありがとう♡ …でも亜流、見とれるのは程々にしといた方がいいわよ?」


突如、声色が真剣なものに変わった。


「へ?」


可愛いとか油断してる場合じゃなかった。

彼女は地にいる私に向かって勢いよく飛んでくるとなんと!手に持っている大きな鎌を振りかざしてきた。


やばい。


「ひっ…!」


私はもうダメだと思って目を閉じる。


カキーン!


すぐそばで金属と金属がぶつかり合うような鋭い音が聞こえてきた。


「ちょっと、暗?邪魔しないでくれる?」


そっと目を開けるとそこには暗ちゃんが金砕棒で殺女ちゃんの鎌を押さえつけている光景があった。


「あや姉、邪魔したつもりはないよ!りゅんりゅん全っっ然、戦い方分かってないみたいだしそれに何故かあやおば…」


殺女ちゃんが暗ちゃんを睨む。

デジャヴを感じたのか暗ちゃんは震え上がった。


「こほん!あや姉に見とれたりで油断しまくりだからこのままだと攻撃を受けて消えて無くなっちゃうよ~!?」

「えっ!?消え…!?」

「うん!きれいさっぱり~!第二の死ってやつだね~!!」


この場所では既に死んでいる人間が強い攻撃を受けると存在ごと消えて無くなってしまうらしい。


今度は私が殺女ちゃんに震え上がった。


「はぁ…そんなに怯えちゃって、まったく。記憶を無くしてしまっているとはいえ情けないわねぇ…」


もはや殺女ちゃんの中の情けないの基準がどういったものか私は分かりません。


「そこでだ!りゅんりゅんの能力が目覚めるまで危険な状態に陥った時、私がサポートする!これでどう!?安全でしょー!!…あ、りゅんりゅん大丈夫?」

「暗ちゃん…!!」


ときめきを感じたのだろうか。私のハートがトゥンクと音を立てた気がした。(謎)


「亜流を試すためにもなるべく手助けはさせたくないのだけど…その程度ならいいわ。」

「よっしゃあああ!!暇つっぶしー♪」

「え゛っ」


私のときめき(?)を返してー!?


どうやら暗ちゃんは私を助けたかったわけではなく暇つぶしがしたかっただけみたいだ。

亜流の豆腐メンタル、ちょっと傷つく。


「ほら、再開よ、亜流。気を抜かないでちょうだい」


「っ…!」


いつの間にか殺女ちゃんは私の真後ろにいた。そして再び鎌を振り上げ…


「ひ…っ!」


衝動的に目を閉じた。


バイーン!


「え…?」


なにかが跳ね返されるような鈍い音がした。


痛みはない。


また暗ちゃんが守ってくれたのかな?


そう思って目を開けてみると、なにやら私の周りにシールドのようなものが張っていた。

それのおかげで私の体は守られていた。


「えぇー!りゅんりゅんもう目覚めちゃったのー!?つまんなーい。暗ちゃんのおたすけ出番なくなっちゃったねー?」


…これ、私がしたの!?


「ようやく面白くなってきたじゃない?」


To be continued...