「その声は…!」
「殺女よ、亜流」
紛れもなく殺女ちゃんの声だった。
「なんで…」
「亜流、あなたが戦っていたのは確かに私。私の力の一部が分身として形になったものよ」
「ぶ、分身?」
「ええ。確かにあなたは私を殺した。でもそれはあくまで私のほんの一部」
目の前に謎の光のモヤが現れる。
すると、
ぽんっ☆
「あ、殺女ちゃん!」
「ただいま」
中から可愛らしく殺女ちゃんが姿を現した。
「あれ?じゃあ、さっき地面に崩れ落ちた殺女ちゃんの身体は?」
辺りを見回すもそれは見つからなかった。
「言ったでしょ?分身だって。あれはもう不必要だから消滅させたわ」
「ほえ~」
軽く混乱している私に再び説明をしてくれた。それから少し自慢気に言う。
「力の一部を失ったというだけで余裕で生きてるわよ。死神が簡単に死んでどうするのよ」
一部でもあんなに強かったというのにそれじゃあ殺女ちゃんってどんだけ強いんだろう…。
「めちゃくちゃ強いんだね」
「あら、他より長く生きてきた分、経験を積んでるから少しばかり力を持っている。…それだけよ」
冷静に返す殺女ちゃん。
か、かっこいい…!
「亜流、あなたは私と比べて生きてきた時間がかなり短い割に強力なパワーを持っている。故にこれまで私とライバルとして張り合ってきた。戦闘を繰り返す度に私は苦戦したわ」
「え?私が?殺女ちゃんに適うほどの力を?」
「そうよ、それと亜流は忘れてるみたいだけどあなたの持ってる特殊能力は記憶を維持したまま転生する能力だけじゃないわ」
今までまったく気がつかなかった。
私に別の能力が?
「それって一体?」
「コピー能力よ」
「コピー?」
「ええ、他人が持ち合わせている特殊能力を一度目にすることで自分も使えるようになる。あなたの能力のメインのようなものだったけれどね」
そんな素晴らしい能力が私に…!
しかし、感動すると同時におかしなことに気がつく。
「あれ?特殊能力をコピーできるのはいいけど特殊能力なんて持ってる人、他にいるの?」
聞くと殺女ちゃんは苦しげな表情になった。
「ええ、たくさんいるわ。そう…たくさん…」
フラフラになりながら頭を抱え、なにやらぶつぶつと呟いている。
なんか厨二っぽいけど真剣みたいだし黙っておこう。
そんなことを思っていると突如、肩をガシッと掴まれた。
「え!?な、なに!?わわわ私べつに殺女ちゃんが厨二病とか全然思って…」
「亜流!」
「はいぃぃ!」
「特殊能力を持った生徒達を絶望から救って世界を平和にしてほしいの!」
「…え?」
厨二病とか思っちゃったことがバレたのかと怒られる覚悟で身構えてたから全く別のことを言われ思わず拍子抜けする。
「なーんだ!よかった!」
「はぁ?亜流、あなた私の話ちゃんと聞いてた?」
「え?ごめんごめん、聞いてなかった☆」
しー…ん
暫しの間、沈黙が訪れる。
…や、やばい…
別の意味で怒られる!!
安心して思わず調子に乗りすぎてしまった。
「亜流…?」
笑顔だけど怖い!絶対怒ってる!
殺女ちゃんは確かに笑顔を浮かべていた。
しかし、その笑顔はとてつもなく黒いオーラを放っている。それを感じとった私は彼女からそっと背を向け、何も見ていないふりをして逃げようとする。
が。
「いたたたたたいたいいたい!」
肩に置かれていた手に強い力をこめられ、背を向けようとするも無理矢理元の体制に戻されてしまった。
「今回のことどう思っているのかしら?」
「あ、ああ殺女様が真剣なお話をされていいいらっしゃるというのに全く聞く耳を持たなかったのは誠にもも、申し訳わけないと…!」
震える声でそう言いながら頭を下げる。
すると殺女ちゃんの手が今度は私の頭を引き上げ、それから顎を掴みあげる。
び、美少女からの顎クイ…!
…なのに嬉しくないのはなんでだろう!!
きっと私の中で危機感の方が大きくなっているからだろうと身を持って感じた。
「あら、そーう?でも、亜流ちゃんは悪い子ですからぁ?一度お仕置きされた方が反省するかもしれないわねぇ?…私の力で」
殺女ちゃんの周りに紅い魔法陣のようなものが浮かび上がった。
本気で殺る気だぁぁあああ!?
「勘弁してくださいぃぃ…!お願いします神様死神様殺女様~!!」
私の言葉に全く聞く耳をもたずにお仕置きしようとしてくる。
あぁ、仕返しされてるなぁ、これ。
今度はなにやら額に指を添えられた。
ま、ままままさか私死んじゃわないよね!?
……いや、そういえばここ三途の川だったよ!
もう既に死んでるようなものだったよ私!!
しかし、ふと暗ちゃんの言葉が思い返される。
[第二の死ってやつだね~!!]
あれ?もしかして消えて無くなっちゃう…!?
そんな事を考えている内に殺女ちゃんが技を…
「…はぁ…」
「え?」
ふと、殺女ちゃんの手の力が緩まった。
「怒りたいのは山々だけど今はこんなことをしている暇なんてないのよ。あなたを早く送り帰さないとそろそろ危険だし」
た、助かった…。
ひとまず自分の胸を撫で下ろす。
これからはもっと態度に気をつけないとなぁ。
特に殺女ちゃんには。
徐々に落ちつきを取り戻していった。
あぁ、そっか。此処から帰る前に万が一あっちの世界で私が死んだと判断されちゃってたら…
「私の身体が危うい…!」
「そうね。だからもう一度言わせてもらうわ」
「特殊能力を持った生徒達を絶望から救って世界を平和にしてほしいの!」
真っ直ぐな目を向けてそう言った。
「それってもしかして…」
「あなたの役目よ」
「やっぱり!えっと、生徒達っていうのは…」
「あなたの通う私立星海高等学校の生徒達のことよ。あの学校には特殊能力を持つ生徒が多数存在しているわ」
「えぇっ!?能力を使う生徒なんて見たことないけどなぁ…」
今まで一度たりともあの学校でそんな生徒を見たことはなかった。
…いや、私が難ありな性格で知り合いが少ないせいかもしれないけれど。
「亜流…あんた馬鹿ね。たとえ能力を持っていたとしても他人が見ている場で使う訳がないでしょう?」
「た、確かに…」
どおりで見たことがないわけだ。
納得していると、
「…何事もなければ」
殺女ちゃんは付け足すように言った。
「ん?何事も?」
「ええ、能力の暴走とかね」
「暴走!?」
なんだか危ない話を聞いてしまった気がする。
「言い忘れてたけれど彼らはまだ能力に目覚めていないのよ。だからそもそも使えてすらいない。ただ、近いうちに目覚めるわ。能力というものは目覚めたばかりの頃はコントロールが難しいの。場合によっては周囲を巻き込み、人々を絶望に…最悪、死に陥れることもあるわ」
「え…」
人を死に陥れてしまう可能性のある生徒達が通う学校。そんな危険な学校に私は今まで通っていたのかと思うとゾッとした。
「多数の能力者が同じ場所に存在してしまっている今、仮に能力同士がぶつかり合い…そうなってしまえば大規模だけど世界の危機にまでなりかねないわ。場合によっては滅亡しちゃうかも。ほんとそのくらいよ」
「そんな…!」
世界が滅亡してしまうだなんて…
あの世界では嫌なことが沢山ある。
人間関係が上手くいかなかったり、勉強があやふやになったり。パプリカが存在していたり。
けれど良いことだって沢山あるし、それに私にとって大切な人達がいる。私はその人達に幸せな人生を送ってもらいたい。
その人達と幸せな人生を送りたい。
平和に…過ごしたい!
私の中で役目を果たしたいという意思が強まった。
「私が…私がその子達を救えばいいんだよね。その子達の能力の暴走を止めれば…!」
「ええ、そうよ。それであの世界には平穏が訪れるの」
「…わかった。役目はちゃんと理解したよ。自分の能力のことも含めてまだよく分からないことだらけだし、それに私って性格に難ありだからいろいろ難しいかも…だけど、うん!とりあえず自分を信じて頑張ってみるよ!!」
そう言って笑ってみせると、
「っ…!」
殺女ちゃんは驚きの表情を見せた。
そして、
「え…」
一瞬。
ほんの一瞬だけど私を睨みつけたようなそんな気がした。
気のせいかもしれない。
今、彼女は明るい笑顔を浮かべている。
「…素晴らしい意気込みね!頑張ってらっしゃい。あなたが困った時は駆けつけるわ」
「え!ってことは殺女ちゃんもあっちの世界に行ったりするの?」
「直ちょくね。私はこっちでの仕事もあるから」
「あぁ、そっか。死神だもんね。魂の管理…とか?忙しいのかな?」
「ええ、まぁ、そんなところよ」
…あれ?
そういえば死神である殺女ちゃんがどうして私にこんな役目を渡すのだろう?
「殺女ちゃん、そういえばどうして私にこんな役目を?殺女ちゃんはあっちの世界の住人ってわけでもないし、死神だからそんなこと気にかけてる暇なんてないんじゃ…」
「亜流、あんたほんと馬鹿ね。死神だからこそよ。あの世界とこの世界は繋がってるようなものだしたくさん死人が出られてしまってはこっちとしても仕事が増えて困るもの」
ああ、なるほど。
どうやら私の盲点だったみたいだ。
…あれ?(2回目)
「でも噂になってた通り魔って殺女ちゃんだよね?なんでそんなこと…」
死人が出るのを嫌がっておきながら、死人が増えてしまうようなことをしているのは矛盾していておかしい。
「未だ見つかっていなかった連続殺人事件の犯人達を始末してただけよ。あいつらのせいで仕事が山積みで大変だったわ、まったく。そんな奴ら早めにあの世界からいなくなった方がいいもの」
「なんだ、そうだったんだね」
死神ってなんというかその単語からダークなイメージが勝手に沸いちゃってたみたいで彼女の口から「平和」とかそういう言葉が出てくるのに驚いちゃってたのかもしれない。
死神って案外いい人(?)なんだ。
「殺女ちゃん!ありがとう、私に役目を渡してくれて。これで私は役目を果たせるし、世界は平和になるかもしれないんだね!」
「あなた次第よ。それに勘違いしないでちょうだい。私はあなたのために役目や状況を伝えたわけじゃないんだからね」
「はーい、全く素直じゃないんだからー」
殺女ちゃんの頬を指でつんつんする。
「調子に乗るとお仕置きよ?」
「スミマセンデシタ」
さっきと同じ黒い笑顔を目にして硬直する。
出てきた言葉はもはやカタコト…!
「まぁ、亜流なら私に見合った力をもってるわけだしぃ?大丈夫だと思うけどぉ?」
「いやいやいや、無理ですやめてください殺女様!」
「はいはい、冗談よ。あなた記憶失ってていろろと劣ってるものね」
なんだろう。本当のことを言われてるはずなのに地味に傷つくしムカつく。
「ちょっと?表情が怖いわよ?可愛い顔が台無しね。」
「び…びびび、美少女に可愛いとか言われちゃったー!?」
私はムカついた感情と一瞬でおさらばした。
次第に顔がにやけてくる。
「はぁ…相変わらずね。まさか記憶をなくしてもそうだとは…」
「昔からそうだったのか…」
自分の悪い癖が慢性のものだと知って微妙な気持ちになる。
「とりあえずあっちの世界に送り帰すわよ!」
「あ、はーい!」
やっと帰れる!
喜びでいっぱいになった。
「まったく…りゅんりゅん、あや姉、話長すぎだよ~…」
「暗ちゃん!」
すっかり存在を忘れてた。ごめん!
「2人の話、あまりにも長続きしそうだったからお仕事に戻ってたの~!私、寂しかったんだからね~!?」
暗ちゃんが涙目で見つめてくる。
か、可愛い…!
「ごめんよ~!」
私は全力で暗ちゃんの頭を撫でた。
全力よしよしした。
「わー、髪型が崩れちゃうって。」
「ななな、なんという乙女!可愛すぎる!鬼かわいい!もっとよしよししたい~!」
「はいはい、茶番はそこまででいいかしら?…もう時間が無いから強制的に飛ばすわよ?」
「え?」
殺女ちゃんがそう切り出すと、
「わわわっ!?」
ふわっ☆
私の体は彼女が巻き起こした風に乗って宙に浮いた。
「はーい、1名様いってらっしゃ~い!」
「りゅんりゅんばいばーい!ふぁいとだよー!」
びゅうううううん!!
それからものすごい勢いでどこかに向かって吹き飛ばされたのだった!
「ええぇぇえぇえええ!?」
To be continued...