第7話 病室パーティ


「今日からしばらくの間、心音さんの担当をさせていただきます、相川 美音(あいかわ みのん)よ。よろしくね」


看護師さんは笑顔で自己紹介をした。


「よろしくお願いします。それであの…」

「なぁに?」

「殺女ちゃんが相川さんにひどい仕打ち?をしてたところを私が助けたっていうのは本当でしょうか?それに一体なにが…?」


殺女ちゃんがひどい仕打ちをましてや普通の人間にするだなんて…


不安になりながら聞くと相川さんは困った表情をした。


「心音さん。話をすれば長くなるわ。それに記憶を失っているというのならおそらく聞いても本当か否かなんて分からないと思うけれど?」


確かに相川さんの言う通りだ。

あと、辛い過去を思い出させちゃうっていうのもあったし聞くのはちょっとアレだったかな…


「そうですね…ただ、もし殺女ちゃんが人間にひどい仕打ちをするような死神だったとしたなら人々を絶望から救って世界を平和にして欲しい、といった彼女の言葉を信じ続けていてもいいのか不安で…」


「人々を?絶望から救って?…殺女が心音さんにそう言ったの?」


…しまった。


他人に聞かれていいのか分からないことを思わず口を滑らせて言ってしまった。


「あ、いえ…殺女ちゃんが世界が平和になればいいなぁと言っていただけです、あはは…」


誤魔化すために無理矢理笑顔で答えた。

おそらく大層引きつっていたことだろう。


しばらく相川さんは何かを考える素振りを見せた後、


「そっか」


一言だけそう言った。


「あ、心音さん。そろそろ診察の時間よ。先生のいらっしゃる診察室まで私が案内するわ」


「え?」


突如、看護師モードに切り替えられて呆然とする。


「診察の時間よー?」


私の目の前で手のひらを上下させる。

正気に戻った。


「あっ、は、はい!」


「ふふふ、じゃあ行くわよ」


さっきまでの話は一旦忘れて相川さんについて行くことにした。


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相川side


ひとまず亜流様を診察室に送った。


「まさか殺女がそんなことを言うだなんてね」


一体、この世界に何が起こっているというのか。


今まで殺女が亜流様に渡してきた役目は悪逆非道なものばかりだったのに。


…記憶を失ってまるで別人になってしまわれた亜流様を利用している?


亜流様…利用…?


「くっ…!」


少々辛いことだけれど殺女のことだ。

きっと何か考えがあるのだろう。


私は溜め息をついた。


「はぁぁ…しかたないわ。いくら私が殺女を嫌おうとも彼女が導き出した使者への指示がないとこの世界と死後の世界が混乱しかねないものね。きっとこれでいいのよ」


そう、きっと。


きっといつもとは少しやり方が違うだけ。


亜流様の肩書きに傷が入ってしまうかもしれないけれど彼女は今、記憶を失っているもの。


普段と違う役目を受けたとして苦しくないでしょうし、いつも通り混乱を防いで下さることでしょうね。


「亜流様…いえ、心音さん、応援しています」


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亜流side


診察が終わった私は迎えに来ていた相川さんと一緒に病室に戻った。


しばらくして夕食を摂り、その後、彼女にシャワールームや御手洗、施設内を案内された。


いろいろと済ませて気づいたら時刻は22時。

おそらく消灯時間を越していることだろう。


「今日はお疲れ様。ちょっと遅くなっちゃったわね。あとはゆっくり休んで?」


申し訳なさそうにしながら手を合わせる相川さんにむしろ感謝の気持ちを伝えた。


「こんな遅くまでありがとうございます

「あら。ふふっ、いいえ~おやすみなさい、心音さん。いい夢が見れるといいわね」

「はい!おやすみなさい、相川さん」


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次の日。


「亜流ちゃん、こんにちはー!」


学校は休日。

結愛ちゃんが面会に来てくれた。


桜色に着飾った私服姿もやっぱり可愛い。

同じ女子とは思えない女子力の高さを感じる。


「こんにちは、結愛ちゃん」

「今日ね、ケーキ買ってきたの!一緒に食べよ~!」


そう言ってケーキが入った箱をベッド横にあるテーブルに置く。

中からケーキを取り出し、持参したであろう紙皿の上に一切れずつ乗せていった。


「準備いいんだね」

「えっへん!当然だよ~」


自信満々な様子を見て癒される。

ふと、箱の表面にあるお店のロゴが目に入った。


「…このケーキ、前に二人で行ったことがあるあのケーキ屋さんで買ったの?」

「うん、そうだよ~?」


無意識にもあの時の店員さんの黒い表情が思い返され、ケーキに毒が入っていないか疑ってしまう。


「亜流ちゃん?どうしたの?そんな怖い顔して…もしかして結愛のお見舞い嫌だった…?」


今にも泣きそうになる結愛ちゃん。


「ちっ、ちがうよ!?むしろ嬉しすぎるよ!?」


いつも通り彼女の頭を優しく撫でた。

すると、安心した表情を見せる。


「よかった~じゃあ、ケーキ食べよう?」


結愛ちゃんは手元のケーキを箱の中にあったプラスチックフォークで口にする。


「ん~おいひ~!」


とても美味しそうに食べている。

毒は入ってなさそうだ。


それともそのケーキだけ結愛ちゃんが食べることを想定して…?


いやいや、まさかぁ~!


考えすぎでしょ!!


疑いつつもケーキを口に入れてみた。


「こ、これは…!!」


めちゃくちゃ美味しかった。

思わず顔が緩む。


「お~い~ひ~い~!結愛ちゃんありがと~!」


「いえいえ~!亜流ちゃん幸せそうだし持ってきてよかったよ~」


二人でケーキを食べつつ雑談をしていると、


ガラガラガラ


病室の扉が開く。


「あら、紅葉さん、やっぱり来てたのね」


なにやら紙パックのみかんジュースを両手に持った相川さんが入ってきた。


「賑やかだったからなんとなくそうじゃないかなって思ってたのよ。はい、これは私からのプレゼント」


そう言って相川さんは私と結愛ちゃんにみかんジュースを一つずつ差し出してくれた。

私達がケーキを食べているのを見計らって買ってきてくれたみたいだった。


「ありがとうございます」

「ありがとう、美音ちゃん!」


結愛ちゃんが相川さんを名前で呼ぶ。

すると、相川さんは照れたようなぎこちない笑みを浮かべた。


「いえいえ、心音さん、結愛ちゃん。…あ」


人差し指を口元に添えて言う。


「これは業務外だから他の人達には、しーっ、よ。わかった?」


「「はーい」」


声を揃えて返事をした。


それからしばらくの間、私達は三人で楽しく雑談をしたのだった。


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ケーキを食べ終わり、片付けの手伝いをする。といってもゴミを捨てる程度だけれど。


ふと、ケーキが入っていた箱の中に何か封筒のようなものが入っているのを見かけた。


私はそれを取り出し、中を確認する。


そこには一枚の紙が入っていた。

どうやら手紙みたいだ。


「亜流ちゃんへ。あの時はごめんなさい。結愛ちゃんから大切な親友が病院に入院してるってそう聞いたの。それから亜流ちゃんの話を熱心にしてくれたわ。あなた達本当に仲良しさんなのね。今回は特別に結愛ちゃんが言ってた亜流ちゃんが好きそうなフレーバーのケーキを二つ用意させてもらったわ。仲良しなのはいいことよ。二人で美味しく食べてね。それとどうかお大事に。 結愛ちゃんと仲良しな店員より。」 


手書きの綺麗な文字で書かれていた。


くすっ…


思わず笑いをこぼす。


そっか、私のことを熱心に話してくれたんだね。


片付けをしている結愛ちゃんを近くに見つけるとその頭をそっと撫でた。


「よしよし」

「わっ!亜流ちゃんどうしたの~?えへへ」


結愛ちゃんは照れながら嬉しそうにしている。


一時はどうなるかと思ったけれど誤解も解けたみたいでよかったよ~。


つくづく思う私なのであった。


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「…なるほど。亜流がねぇ…」


一人ぽつりと呟く。


「これはまずいわね」


To be continued...