第8話 嫌悪


「結愛ちゃん、そろそろ帰らなくて大丈夫?」


気づいたら時刻は午後6時近くになっていた。さすがにこれ以上ここに居させるのは危険だろう。そう思って私は声をかけたのだ。


「えっ!もう6時なんだ…帰らないと」


スマホの時計を確認してから結愛ちゃんは少し寂しげな表情で帰宅の準備を始める。


…そういえば。


「院内行動自由みたいだし、病院の玄関まで見送るよ?」


ふと思い出して笑顔で言った。

すると相川さんも。


「あら、それなら私も着いて行くわ。玄関まで向かうのに迷ったら大変だもの」

「わーい!二人ともありがとう」

「「いえいえ~」」


こうして私達三人は病室を出て、玄関へと向かう事にしたのだった。


通路を歩いている途中、


「亜流ちゃん。怪我、痛くないの?」


私のお腹を見ながら結愛ちゃんが心配そうな表情で聞いてきた。


「あはは、よく分かんないけど治りが早くてさ~あんまり痛くないし大丈夫だよ」


彼女を安心させるように笑って答えてみせる。


実質、あまり時間が経たない内に銃で撃たれたことによる傷の痛みはほとんど消えて無くなっていたのだ。


「いつもなら怪我とかしたら治るまで結構時間がかかってた気がするし、体質的な何かじゃないと思うんだけど…不思議だなぁ」


「っ!」


相川さんが驚いた表情をして急に立ち止まった。それに合わせて私と結愛ちゃんも一緒に立ち止まる。


「美音ちゃん?」

「どうしたんですかー?驚きすぎですよー?」


声をかけると、


「…ふふ、大げさすぎたわね。ごめんなさい。そうねぇ、不思議なこともあるものね」


何事もなかったかのように自然な笑顔でそう言った。


怪我の件も不思議だけど相川さんも不思議な人だなぁ。殺女ちゃんの話をされた時くらいから思っていたのだけれども。


それから私達は再び玄関に向かって歩き始める。通路の角を曲がろうとした。瞬間、


ドンッ☆


「きゃあっ!?」


相川さんが誰かにぶつかる。


「「相川さん!?/美音ちゃん!?」」


ベタンッ!


ぶつかった衝撃で彼女は勢いよく地面にしりもちをついた。


「いっ…たたぁ…」

「だ、大丈夫ですか!?」


慌てて横から手を差し伸べる私。


「心音さん、ありがとう」


申し訳なさそうにしながら手を引かれ立ち上がるとすぐさまぶつかった相手の方へ向き直った。そして一礼をする。


「ぶつかっちゃってごめん…な…さ……」


身体を起こすなりなにやら血の気の引いた表情をして固まる。


「相川さん?どうし…あっ」


声をかけようとして途中、その原因に気がついた。 


彼女の視線の先に目をやるとそこには見覚えのある黒髪の少女の姿があった。


「あ、あれ?」


紛れもなく殺女ちゃんだった。


突然のことに相川さん同様固まっていると、状況を理解出来ていない結愛ちゃんが笑顔で殺女ちゃんに近づいた。


「あ、あの時の!亜流ちゃんを助けてくれてありがとう!」

「あら、大したことはしてないわ。あなたが救急車を呼んだおかげじゃないかしら?」


殺女ちゃんは優しく微笑みながらそう言う。

しかし、相川さんに目を向けた途端、表情を大きく変貌させた。


「ちっ…」


「「ひ…っ!」」

「っ…」


小さな舌打ちと共に放たれた冷たく突き刺さるような軽蔑の視線。


思わず身体を震わせる。


その場の空気はこれでもかというくらいに凍りついた。誰一人として口を開かない。


しばらくして同じくソレを見たであろう結愛ちゃんが怯えるようにぎゅっと抱きついてきた。


呆然と立ち尽くしていた私はそこでようやく我に返り結愛ちゃんを落ち着かせるように彼女の頭をゆっくりと撫でた。


「ぶつかってごめんなさいねぇ?相川美音さん?」


口元は笑っていながらも目は笑っていない。

そんな黒い笑顔を浮かべながら相川さんの名を呼ぶ殺女ちゃん。


二人が知り合いというのは本当だったのか…?


そんなことを考えている時。


ヒュゥゥゥウ!!


「「わぁぁぁあっ!?/きゃぁぁあっ!?」」


突如、強風が辺りを包み込んだ。


私と結愛ちゃんはその場に立っていられなくなり壁の方へと強制的に吹き飛ばされる。


風が収まった頃、いつの間にやら相川さんの手に1mくらいの大きな注射器が持ち構えられていた。

そしてナース服が清潔感を帯びた白色のものからまるでコスプレのような色鮮やかで派手なものへと変わっている。


彼女は何も言わないが、憎しみのこもったような目で殺女ちゃんをじっと睨みつけていた。


一方、殺女ちゃんの方は余裕そうに嘲笑を浮かべていた。


「あらあら…どうやら戦闘をご所望のようで?」


ビュォォン…!!


「今度は何!?」

「亜流ちゃん、こわいよぉ…」


再び強風が辺りを包み込む。


恐がる結愛ちゃんを守るように抱きしめながらその光景を愕然として見ていた。


気がついた頃には殺女ちゃんの手にどこからともなく現れた大きな鎌が握りしめられていた。

こちらもコスプレのような魔法少女みたいな衣装に変わっている。この前、私と殺女ちゃんが戦った時と同じ衣装だ。


「…殺女、あなた何しに来たの?」


しばらくの間、無言だった相川さんがやっと口を開く。


「それは後回しよぉ。そんなことよりなぁにその態度?私に戦闘を望むなんていい度胸ね?……いいわ、本気で行くから」


そう言って殺女ちゃんは鎌を振り…


「ちょ、ちょちょ、ちょっとまったー!!」


私は慌てて二人の間に割り込んだ。


「なによ亜流、なんか文句でもあるわけ?」

「よく分からないけどここ病院の中だよ!?」


いろいろ気を取られて忘れていたけれどここは病院の中だ。強風が吹いた時は幸い、周りに吹き飛ぶようなものはなかったし私達しかいなかったけどあまりに危険すぎる。

万が一、患者さんや看護師さん達に害があったら…大事になるだろう。


「せめて場所を移動してください!」


そもそも戦闘なんてやめてほしいのだけれど…


それに…


ちらりと相川さんの方を見る。


「っ!…亜流…様…」


普通の人間じゃなかったんだ…


私と目が合うと悲しげな表情を浮かべた。


時同じくして、


「亜流ちゃん、黒髪の子と知り合いだったの…?それに美音ちゃん…注射器?強風?鎌?」


バタッ!


「結愛ちゃん!?」


少し離れた場所で結愛ちゃんが混乱しすぎたのか失神して倒れてしまった。


「はぁ…亜流、その子はあなたの病室に運んでおいてあげなさい。屋上に移動するわよ」


殺女ちゃんは一旦鎌を何処かへとしまい、相川さんもそれに合わせて注射器をしまった。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「や、やっぱり戦っちゃうんですね…?」


屋上にて。なぜか観戦客とされた私は、唖然として武器を構える二人を見ていた。


「当然よぉ。売られた喧嘩は買うわ」


いかにも楽しそうな声と満面の笑みで返す殺女ちゃん。


これは聞き分けがなさそうだな。


そう思って期待の念を込めた視線を今度は相川さんの方へ向ける。


お願いだから戦闘なんてやめて…!


「……戦います。亜流様、ごめんなさい」


こちらは申し訳なさそうな表情と丁寧なお辞儀で謝られてしまった。


やっぱだめかぁ…


しかたなく諦めることにした。


「覚悟はよろしくて?病姫さん」


ん?病気?

相川さんのことを馬鹿にしてるのかな?


そんなことを考えている内に、


「…ええ。殺女」


二人は意志を交わした。


瞬間。


ヒュゥゥウ!!


カキーン!!


「っ!?」


何が起きたのか分からなかった。



見るとどうやら空中で戦っている。


強風に乗ってものすごい速さで移動しながら武器を振り回す二人。

金属同士がぶつかり合う鋭い音が辺りに響き渡っていた。


三途の川で私と戦っていた時とは比べ物にならない勢いで凄まじい力を放つ殺女ちゃん。

それに対抗するようにとてつもなく強い力を放つ相川さん。


「うぇ、なにこれ!?本気モード!?」


驚愕しながら二人を眺め続ける。


「あら?少し腕を上げたぁ?ま、所詮その程度でしょうけど…っ!!」


カキーン!!


盛大に鎌を振り回す殺女ちゃんは挑発しながらも真剣な表情でいかにも本気といった感じだ。


そして相川さんも。


「いいえ、まだまだよ!ハァァぁぁああっ!!」


大きな声を上げながら重そうな注射器をぶんぶん振り回していた。


「え!こっちに来る!?」


ヒュゥゥウ!!

シュタッ!


戦闘を続けながら二人は屋上へと戻ってきた。

突然の事に慌てて距離をとる私。


そのまましばらく熱戦を繰り広げ、途中、相川さんが隙をついて注射器を振り翳した。


「!…今ね、はあぁぁっ!!」


…しかし。


ピシッ!!


「「っ!?」」


殺女ちゃんは勢いよく振り下ろされた注射器の針をなんと素手で掴み、止めてみせた。


そしてまたもや軽蔑の視線を向けながら呟く。


「弱い癖に…」


低めのトーンの小さな声だった。


「っ!…殺女。あなたには強さしか見えていないの?……可哀想な子」

「はぁ?それどういう意味よ?」

「自分で考えるといいわ。可哀想な死神さん?」

「っ、うるさいっ!出来損ない!強い者こそが全てを制するのよ!私に権力を奪われたからって嫉妬してるの?」

「嫉妬なんてしてないわよ!人聞きの悪い」


二人の口論は次第に大きくなっていく。


しばらく言い争って、ふと、殺女ちゃんが両手で鎌を持ち前へと突き出した。


「必殺技をお望みかしら?あの時みたいに大けがするかもしれないわねぇ?」


「っ!?」


黙り込む相川さん。

それから悔しそうに歯を食いしばっている。


「っ~!」

「ふふ…あはは…あははははっ!ほぉら、見なさい。強い者こそが生き残るのよ」


今までに見た事がないくらい楽しそうにしながら甲高い笑い声を上げる。


「…ぁ…」


その様子を無表情で見つめながら相川さんはなにやら口をパクパクさせていた。

それに気づいた殺女ちゃんは言う。


「あら、なにか言いたげね?口をパクパクさせるだけで声も出せないなんて…ほんっと無様」


煽られたのを機にさっきまでの無表情が一変する。怒りの篭った目で睨みつけながら叫んだ。


「あなたみたいな妹なんか生まれてこなきゃよかったのに!!」


「っ…!?」

「妹!?…え!姉妹!?」


初めて聞いた事実に私は衝撃を受ける。


その言葉を聞いてなのか殺女ちゃんが悲しげな表情を浮かべた。

しかし、それは見間違えだとでもいうようにすぐに怨色の表情へと塗り替えられた。


「いいわ、姉さん……とっておきの技をお見舞いしてあげるわ!」

「望むところよ、かかってらっしゃい!!」


そう言う相川さんの声は意を決したような強く大きな声だったが、多少震えていた気がしなくもない。


そして殺女ちゃんは鎌を自分の前で一回転させてから再び宙に浮き、両腕を横に広げて必殺技を放った。


「スタビングトゥヴァッシュ!!」


To be continued...

コメントをお書きください

コメント: 2
  • #1

    福ちゃん (木曜日, 16 8月 2018 22:52)

    殺女ちゃんと相川さんの関係が気になるね!
    空中戦がよくえがかれて迫力あったなぁ

  • #2

    管理者 (金曜日, 17 8月 2018 10:45)

    返信の仕方がわからないww
    ごめんよ� 福ちゃんありがとう!
    これからもストーリー展開とかイラストとか表現頑張るよ�