番外編① Summer memories


「夏だ!海だ!……水着だぁっ!!」


ぎゅ~っ!


「ちょっ、亜流!抱きつかないでくれる?」


テンションが上がった勢いで水着姿の殺女ちゃんに思いっきり抱きつく。


「いいじゃーん!一緒に海に来るのは初なんだし!…だから、ねっ?」

「意味がわからないし気持ち悪い…」

「うっ…!」


心に100万のダメージ!(謎)


めちゃくちゃ嫌な顔をされてしまった。

亜流の夏悲しや…


って、まだ始まったばかりだよね!!


私たちは今、夏を満喫するため海に来ていた。

といっても、初めから来る予定だったわけではなく街を歩いている途中、すれ違った相川さんと結愛ちゃんに誘われてそのまま着いて来たというわけだ。そのため水着は用意してなく近くの海の家でレンタルした。


「殺女ちゃん水着似合ってるよ~!胸はぺったんこだけd痛っ!?」


思わず口を滑らせてしまい、頭にゲンコツを喰らう。相変わらずの力強さ。


「あんた人のこと言えないでしょうが!」

「殺女ちゃんよりかはあるもーん!」

「いいえ、私の方が…!」


「おーい!着替え終わったなら結愛たちと一緒にビーチバレーしようよ!」

「ボールふくらませ終わったわよ~こっちいらっしゃいな~!」


胸の張合い(胸だけに)をしていると先に着替え終わっていた二人が声を掛けてきた。


「「あ、あれは…」」


二人ともナイスバディでこれでもかというくらい水着姿がセクシーだった。


「「くっ…!」」

「亜流、くだらない張合いはやめるわよ」

「…そうだね」

「私と美音ちゃんチームVS亜流ちゃんと殺女ちゃんチームでいい~?」

「別に構わないけど…亜流は?」

「それでいいよ~!」


「…亜流」

「…殺女ちゃん」


目を合わせて誓った。


((絶対勝ってやる…!!))


そして貧乳VS巨乳の戦いは始まった。

(※亜流&殺女談)


「じゃあ行くわよ~!……あっ!サーブ、私が打っちゃう?それともじゃんけんで決める?」


ボールを打ちかけてから相川さんはみんなに尋ねる。


「結愛はどっちでもいいよ~?」

「「じゃんけんで!!」」


サーブの先行すら勝負だと思った私たち貧乳組(自害)は声を揃えて言った。


「そうね、心音さんか殺女のどちらかが私とじゃんけん勝負ってことにしましょうか」


その言葉を聞き、ひとまず巨乳組から離れて相談する。


「亜流、ここは私が行くわ」

「ううん、私が行く」

「駄目よ。あなたはここで待っていなさい」

「でも私、じゃんけんには自信が…!」


「これは私たち姉妹の勝負なの」


「…わ、わかった。殺女ちゃん頑張って!」


やけに真剣な表情で言うので引き下がることにした。


「病姫!私と勝負よ」

「あなたが来たのね。…さぁ、じゃんけんよ!」


そして二人は声を合わせる。


「「さいっしょはー」」

「「グー!/パー!」」


しー…ん


「…はい、勝ったわね!」

「いやおかしいわよ!?あなた思いっきり始まる前にパー出してたじゃない!」

「誰がさいしょはグーなんて決めたのかしら…」

「とりあえず殺女たちの負けよ」


しょんぼりした様子で私の元へと帰って来る殺女ちゃん。


「ってなにやってるの殺女ちゃん!?馬鹿なの!?」

「いけると思ったもの!」

「むりだよぉぉお!?」


真剣な表情に騙された私も馬鹿だったよ!


「ま、まぁ、これからよ!勝負は始まったばかりだもの!頑張るわよ亜流!」

「一体誰の口が言ってるのかな!?……いいけどね!!」

「二人とも行くわよ~?」


わちゃわちゃしている中、こっちを見て手を振る相川さん。


「「かかって来なさい!/かかって来いやー!」」


威勢よく発された声を聞くと彼女は勢いよくサーブを放った。


「えいっ!」


ぼんっっ!!


「「「「あっ」」」」


記念の一発目のボールは私たちを通り越して大きく後ろへと行ってしまった。


「…わ、私サーブ向いてないかもっ!」

「次からは結愛がやってあげるよ~」

「え?いいの?ありが」

「駄目よ!交代交代でやりなさい!」


殺女ちゃんが二人に怒り口調で訴える。


「ひぇぇぇ…こ、交代交代にするね!」

「ふん、分かればいいのよ」

「殺女、あなた強く言いすぎじゃない?…楽しむためのビーチバレーなのよ?」

「うっ…」


相川さんの言葉に黙り込む殺女ちゃん。

私も同じく動揺した。


確かに、楽しむために海に来てるんだった。

何やけになって勝手な悔しさを二人に押し付けてたんだろう。


「…悪かったわ。楽しみましょう」


殺女ちゃんは反省した表情で結愛ちゃんの頭を撫でて微笑む。


「えへへ。みんな楽しもー!」

「「「うん!/ええ!」」」


その一声を機に葛藤した空気は消え、楽しいビーチバレーが始まった。


「次は私がサーブね」

「「「殺女ちゃん/殺女ふぁいとー!」」」


…と、思っていた。


サーブの姿勢に入る殺女ちゃん。


「スタビング…!」


「「「え?」」」


「トゥ…!」


ボールに紅色の光が集まって行く。


「す、すとっ…!」

「ヴァッシュ!!」


慌てて止めようとするも遅かった。


ピカーッ!


光に包まれたボールは勢いよく相手コートへ飛んでいく。


「エ…エレクトリックシールド!!」


動揺しながらも叫んだ。

結愛ちゃんと相川さんをシールドが囲む。


バイーン!


それによってボールは跳ね返され、砂浜へと落ちた。


「二人とも無事!?」


急いで相手コートにいた二人に駆け寄る。


「心音さん…大丈夫よ」

「びっくりしたぁ…亜流ちゃん、ありがとう!」

「よかった…!」


安心した私は殺女ちゃんの方を振り返った。


「なんてことっ!技は反則だよ!?もしかしてまだ二人に恨みが…っ!?」


強く言いかけてハッとする。


殺女ちゃん涙目だ…!?


「違うわよ!思いっきり楽しもうと思って!」

「えぇ!?…そのね?楽しむのはいいんだけどね?みんなで楽しめるというかえっと…!」


「おい、なんだ?今の…」

「凄い光だった…」

「揉め事…?」


しまった。


海を訪れていた人々が次々と私たちの周りに集まってくる。


「な、なんでもないんです!あはは…」


どうしようもない状況で適当に誤魔化す私。

それから小声で言った。


「…みんな逃げるよ」

「「「うん/ええ」」」


全員が近くに置いていた羽織ものや水筒をさっと手にしたのを確認すると、瞬間移動の能力を使った。


「テレポーテーション!!」


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「ん…ここは…」


隣町の海水浴場だ。


「っ!そうだ、みんな…!」


周りを見ると三人とも砂浜に倒れ込んでいた。

いまいちよく分からないまま発動させた能力だったから心配になる。


「殺女ちゃん!…殺女ちゃん起きて!」


初めに殺女ちゃんを揺さぶり起こそうとした。


「んん…亜流?」

「よかった!意識がある!」


彼女は起き上がるなり辺りをきょろきょろと見回した。そして、


「…瞬間移動を使ったのね。安心しなさい。確か人を傷つけるような能力じゃないわ」


私を見て呆れ顔でそう言った。


「んー…ここどこ~?」

「心音さん、ありがとう」

「二人とも!」


どうやら他の二人も無事のようだ。


「隣町の海水浴場みたい。水着のままだし移動するならここがいいなとは思ってたけれどまさか成功するとは~あはは~」


「…亜流」


自惚れ気味の私の肩を殺女ちゃんは控えめにとんと叩くと落ち込んだ表情で謝る。


「ごめんなさいね。あなたが居なかったら大事だったわ。ビーチバレーのことも私、勘違いしてたみたいで」

「悪気があった訳じゃないんでしょ?なら大丈夫だよ。…ね、みんな」


二人に目配りをする。


「うん!大丈夫だよ~!」

「殺女、そんなことで落ち込むなんてあなたらしくないわよ?」


「結愛、病姫…」


「…さぁ!移動も済んだことだし思いっきりはしゃいじゃおー!」

「へっ?ちょ、亜流!?」


呆然としていた殺女ちゃんの背中を押しながら海へと向かう私。


「「うん!/ええ!」」


それに合わせて他の二人も着いてきた。


「そうだなぁ、私たちにビーチバレーは向いてなかったけど泳ぐのは楽しいかも!」


海水に一蹴り入れながら言う。


しかし、


「結愛、泳げない…」


結愛ちゃんが絶望した表情で呟いた。


そ、そうだったー!!


親友にこんな表情をさせちゃうなんて私ったらなんてひどい子かしら!


「うぅ…親友失格だぁ…」

「しっかりしなさい。喧嘩するほど仲がいいっていうわ」

「喧嘩とまではいってないけどありがとう殺女ちゃん…」


落ち込んで腰を折る私の背中をさすりながら励ましてくれた。


「浮き輪、借りてくる?」


そうしている間に相川さんが結愛ちゃんの頭を撫でながら聞く


「んー、なんか恥ずかしいから結愛は浅いところで水遊びがいいなぁ」

「いいわね、そうしましょうか。心音さん達はどうする?」

「へっ!?えっとー…」


話を振られて動揺する。


結愛ちゃん私のこと嫌いになってないかな?


心配だけど一緒に水遊びがしたい!


「わ、私も結愛ちゃん達と一緒に──わっ!?」


ぐいっ!


たったったったっ!


ざぷーん!


「ぷはっ!あやっ、殺女さん!?」


突如、殺女ちゃんに腕を引っ張られたかと思ったらそのまま全力で走り出され海の深い方へと一緒にダイブさせられた。


「病姫、結愛は頼んだわよー!」


手を振りながら砂浜にいる二人に声をかける。


「あら…わかったわー!」

「楽しんできてね~!」


手を振り返す二人。


「えええぇぇぇええ!?」

「亜流、あんたは私と海水浴よ」

「……いいけど…」

「なんでしぶしぶなのよ…あ!さてはあんた私がまたなにかやらかさないか疑ったわね!?」


ギクッ!


図星をつかれて思わずキョドる。


「ち、ちがうよ!…そう!私、さっきので結愛ちゃんに嫌われてないか不安だったからどちらかというと結愛ちゃん達と遊びたかったの!!」


これもあながち間違ってはいない。


「…はぁ、いいわ。とりあえず…!」

「えっ?もごっ!」


ザプンッ!


殺女ちゃんは私の両腕を強く引っ張りながら突如、潜った。

そのまま一緒に潜ることとなる私。


「もごっ…!!」


確信した。


この人(?)私で遊ぶつもりだ!!


彼女は私の腕を掴んだまま離さず潜り続けている。水の中だけれど嘲笑しているのがなんとなく伝わってきた。


「もごもごもごっ!(※なにするの!)」

「どっちが長く潜っていられるか勝負よ!」

「もごもごもご…もごっ!?もごもごもごもごっもごもごもごっ!?(※なにそれ嫌…えっ!?なんで水の中なのにハッキリ話せるの!?)」

「死神だからよ!」

「もごもごもごっ!(※死神すげぇ!)」


そんなことを話している内にだんだんと息が続かなくなってきた。


うっ…離してくれないから窒息死しそう…!!


なんとか水の中で居続けられる方法を…能力を考えてはみるけれど結局何も思いつかず、そして限界は訪れる。


「もごもごっ…(※もう無理…)」


「…亜流?」


とうとう意識を失ってしまった。


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「うっ!?…あれ?」


「!心音さん、気がついたみたいね」


気がついたら近くに相川さんの顔があった。


って…


「えっ!?」


近すぎっ!!

というか私、相川さんに押し倒されてる!?胸!触られてる!?


「えぇえ…ぇぇええ?…美女バンザイ…?」


またもや意識を失いかける。


「へっ?し、しっかりして心音さん!…まさかここまで無茶をさせるなんて思わなかったわ」


相川さんは困った表情をしながら私の腕を引っ張り、起き上がらせた。


「美音ちゃんが亜流ちゃんを見てすぐに心臓マッサージと人工呼吸をしたんだよ。意識が戻ってよかったぁ…!」


近くにいた結愛ちゃんが安心したように私をぎゅっと抱きしめる。


「うぅ…よかった!私、結愛ちゃんに嫌われてないみたい!」


自分の頬をつねって夢じゃないか確かめた。


「え?…んーと、もしかして亜流ちゃん、結愛が泳げないの忘れてたこと気にしてた?」

「うん…結愛ちゃん、絶望したような表情してたから嫌われちゃったかなって」

「ふふ、大丈夫だよ。そのくらいで結愛は亜流ちゃんを嫌いになったりしないよ?」

「結愛ちゃあああああん!」


泣きながら思いっきり抱きしめ返す。


「二人とも安心したみたいでよかったわ」


私たちの様子を見て微笑む相川さん。


「美音ちゃんありがとう!」

「相川さんありがとうございます!……ん?」


ふと、さっきの結愛ちゃんの言葉を思い出した。


(「美音ちゃんが亜流ちゃんを見てすぐに心臓マッサージと人工呼吸をしたんだよ」)


心臓マッサージ……人工呼吸…?


意識が戻った時の状況は理解出来たけど…


私、もしかして相川さんとキスした!?


「心音さん、どうしたの?」

「な、ななっ、なんでもないです!」


いや、キスというか人工呼吸だけど口を合わせたなら恥ずかしいというかなんというか女同士だけどなんというか……?


混乱まじりに複雑な気持ちになりながら相川さんを見つめた。


「…ふふっ」


この人笑ってるよ!?


…い、いいけどね!美女だし!!


「あ、あの…殺女ちゃんは…っ!?」


私の腕を片側ずつぎゅっと握りしめると、じっと目を見つめながら言う。


「駄目よ。殺女の元にあなたを居させたら何が起こることやら」

「私達と一緒にいた方がいいよ。安全でいてほしいの」


真剣な表情だ。


確かに今回の件で殺女ちゃんは命の危機になるようなことをしてしまった。


………でも。


「私はみんなと一緒がいいな。殺女ちゃんも含めて四人で。その方が嬉しい」


「「亜流ちゃん…/心音さん…」」


二人は私の腕を掴む手をそっと離した。


「…呼んだかしら?」

「「「殺女ちゃん!/殺女!」」」


様子を伺っていたのだろうか。

私たちの元へと近づく。そして、


「亜流なら大丈夫よ。…なにせ死神が見込んだ人間だもの。何度恐ろしい目に合おうが必ず帰ってくるわ」


私の肩に両手を添えるとそう言った。


「それに…病姫もいるし?万が一私があなた達といてなにかしでかそうとも事は収まると思うの」


「殺女…!?」


その言葉に愕然とする相川さん。


「病姫…今日ばかりは仲良くしましょう?」

「…ええ、そうね。仲良くしましょう」


仕方ないと言った表情で二人は言葉を交わした。そんな様子を見て私も言う。


「みんな仲良くしよっか」


するとみんなは声を揃えて返事をした。


「「「うん/ええ 」」」


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「二人とも仲良くしようって言ったよね!?」


私と殺女ちゃんの間に立ち、声を上げる結愛ちゃん。


「結愛ちゃんは下がってて」

「これは私たちライバルの問題よ」

「お客様…困ります」

「「うるさいっ!」」

「ひえぇぇぇ…」


かき氷やおみやげを買うため、私たちは隣町の海の家に来ていた。


しかし、どうやら殺女ちゃんは海に来ること関係なしにそういうのは私に奢ってもらうつもりだったらしく、財布を持ってきていないという事実がついさっき判明したのだ。


仕方なくかき氷を奢ることにしたのだけど羽織もののポケットから出した財布の中にはなんと一人分のかき氷代しか残っていなかった。


結愛ちゃんや相川さんに頼る訳にもいかなく、私たちは一人分のかき氷を二人で分けることにしたのだった。


…が、問題は発生した。


「いちごがいいの!」

「いいえ、ブルーハワイよ!」


味の意見が分かれたのだ。


なかなか決まらないまま口論は大きくなり、現在に至るというわけだ。


「だいたい人に奢って貰うために財布を持ってきていないなんてどういう神経してるの!?」

「あなたは私の使者だもの。少しくらい利用してもいいはずよ」

「はぁ!?」


なんて傍若無人な言葉なんだろうか。


「私はATMですか!?使者ってATMなんですか!?意味がわからないんですけど!?」

「あら、そのままの意味よ?…というかあなたが大して可愛くもないぬいぐるみをおみやげに買ったりするからこうなるのよ!」


逆ギレされてしまった。


確かに私はこの海の家でいるかのぬいぐるみを買った。可愛い、いるかのぬいぐるみを。


でもそれとこれとは話は別。

殺女ちゃんが財布を持ってくればよかっただけのことだ。


「私のお金だよ!?マイマネーだよ!?ねぇ、わかる!?私がこの財布に入っていたお金をどう使おうがマイマネーだよ!?」

「ごちゃごちゃとうるさいわね!ともかくかき氷はブルーハワイで決定よ!」

「駄目!」

「なんでよ!」

「こっちのセリフだよ!」

「こうなったら力づくで勝負するまでね!」

「望むところだ!」


とうとう戦闘モードに突入する。

勢いよく海の家を飛び出し、砂浜を駆けた。


幸い、こちらの海水浴場はあまり人で賑わっていない。殺女ちゃんは安全そうな場所まで移動すると宙に浮き、私を見下ろした。


そして技を放つ。


「スタビングトゥヴァッシュ!!」

「えっ!?」


一発目でまさかの必殺技をかましてきた。


「そっちがその気なら…!」


殺女ちゃんをじっと見つめ、叫んだ。


「閃光月華!!」


必殺技同士がぶつかり合い、辺りが光で包まれていく。


結愛ちゃんと相川さんが海の家から私たちの様子を心配そうに見ていた。


「ふぇぇ…これじゃあ、地元にいた時と同じだよぉ…」

「結愛ちゃんの言う通りだわ。困ったものね…」

「あの…少しいいですか?」

「「?」」


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しばらくして光は収まった。


「くっ…強くなったものね…」


殺女ちゃんが腕から流れる血を抑えながら私の元へやってくる。


「この勝負、私が勝ったってことでいい?」


少し掠った程度でほとんど無傷だった私は言った。


「ええ、いいわ。……亜流、あのね」

「ん?」

「私、かき氷のために戦ったわけじゃないのよ。普通はそのくらいのことで意地をはったりしないわ」


衝撃の事実を告げられた。


「え!?じゃあなんで煽ったりしたの!?」


「さっき二人で潜ったわよね?…あの時、どちらがとか関係なくある程度したら水面に上がるつもりだったの。でもその前にあなたが溺れちゃったから心配になって…使者に相応しいかどうかを再確認したかったのよ」


「そうだったんだ…」


私が使者に相応しいかどうかを心配して…


「…ねえ、殺女ちゃん」

「ん?」


「私は大切な人達のいるこの世界を守りたい。たとえこの身を犠牲にしてでも…立派な使者になってみせるから安心して?」


真剣になりながら彼女の目をじっと見つめる。


「…ええ、期待しているわ」


殺女ちゃんは微笑みながらそう言った。


「「おーい!二人とも!」」


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戦いを終え私たちは海の家へ戻ってきていた。


「「ありがとうございますっ!!」」

「いえいえ、お客様が仲直りされたみたいでよかったです」


今、私と殺女ちゃんが座っている席の前にはブルーハワイといちごのシロップが半々にかけられたかき氷が置かれている。


喧嘩している様子を見て店員さんが用意してくれたみたいだ。


「えと…さっきの不可解な出来事については黙っておきますんで安心してください。…言ったら殺されそう…」

「何か言ったかしら?」

「あ、いえ…とりあえずお召し上がりに…」

「「はーい!」」


私たちは喜んでそれを口にした。


「ん~冷たくて美味しい!ね、殺女ちゃん!」

「そうね、暑さでやられてた頭が冷えるわ」

「あ、それ言っちゃうんだ。…いちご味食べる?」

「あら、いただこうかしら」

「はい、あーん」

「あーん…ってしないわよ!危うく釣られる所だったわ…スプーン2つあるんだからその必要はないでしょ?」


ツッコミを入れながら自分の持っているスプーンでいちご味のかき氷を食べる殺女ちゃん。


「ちっ、バレたか」

「亜流あんたねぇ……ん、ブルーハワイよ」

「…え?」


目を疑った。


あの殺女ちゃんが赤面しながら私の口元にスプーンを差し出している…だと!?


しかも自らが口をつけたものを!


「いっ、いいの!?」

「いいから差し出してるんでしょうが」

「やったぁ!」

「まったく…あーん」

「あーん!」


ぱくっ!


「美味しい?」

「うん、美味しい!ありがとう殺女ちゃん!」

「別に…私は仕方なく…」


赤面したままボソボソと何かを言っている。


まさか殺女ちゃんからデレがいただけるとはこれっぽっちも思っていなかったよ。


私は感激の波に飲まれた。

…いや、感激の波でサーフィンした。(謎)


そしてその勢いで殺女ちゃんに抱きつく。


「ぎゅーっ!」

「…は!?あんたなに調子にのってるの!?」

「えーいいじゃーん!間接キスした仲だし!」

「かんせ…っ!?だ、ダメなものはダメよ!」


このノリなら行けるかと思ったけれどさすがに引き剥がされてしまった。


「むぅ、ケチだなぁ」

「ケチで結構よ」

「二人とも仲良しさんになってよかった!」

「「結愛ちゃん!/結愛!」」


おそらく御手洗に行っていたであろう結愛ちゃんが戻ってきた。


「一時はどうなるかと思ったよ~亜流ちゃん疲れてない?よしよしいる?」

「いる~!」


結愛ちゃんに頭を撫でてもらいデレデレする私。

身体中の疲れが一瞬で吹っ飛んだ気がした。


「殺女、あなた私たちを振り回しすぎよ」


結愛ちゃんに続くように売店に行っていた相川さんも戻ってきた。それから直ぐに買ってきたであろう包帯を殺女ちゃんの腕に巻き始める。


「あら、病姫。あなたなら私の意図がわかると思ったけれど?」

「…いくら使者の特訓とはいえ亜流様を溺れさせてしまうだなんて…」

「あれ特訓だったんだ!?」


二人の会話を聞いて驚く。


「てっきり私で遊ぶつもりなのかと思ったよー」

「遊ばれるのがお望みだったかしら?」

「ち、ちがいます!頼みますからその黒い笑顔をこっちに向けないで殺女様!」

「ふふっ、はいはいわかったわよ」


面白いものでも見たかのように楽しげな表情を浮かべる殺女ちゃん。


「でも亜流、私のおかげで思い出に残る夏になったわよね?」

「あはは…これでもかってくらいにね」


苦笑いしながら答えた。

きっと忘れることのない夏になっただろう。


「殺女達がかき氷食べ終わったらそろそろ帰りましょうか」

「そうだね~!…あ、亜流ちゃん達!結愛たち先に着替えて来るね~」


二人が更衣室へ行こうとする。

ふと、殺女ちゃんが言った。


「…ねえ、亜流。着替えって確か…」


「「「あっ」」」


地元の海水浴場に忘れてきちゃったんだ!


思い出して焦る私。


「ど、どどどどうしよう!」

「今戻ったらたぶんあの時私たちを見ていた人々がまだいるでしょうし危険すぎるわね」


呆れ顔でそう言われる。頭を捻って考えた。


「そ、そうだ!みんな待ってて!今、着替えをこっちに移動させるから!」


そして能力を発動させる。


「テレポーテーション!」


しー…ん


「ちょっと亜流、何も起きないじゃない」

「あー…えっと、ごめん!私たちがいる場所にあるものしか移動させれないみたい!」


バァン!


「はぁ!?あなた後先のことをぜんぜん考えてなかったわね!?」


苦笑いしながら謝ると殺女ちゃんはテーブルを叩いて声を荒らげた。


「しかたないじゃん!あの騒ぎの場から逃げられただけマシって思いなよ!それに羽織ものと財布(殺女ちゃんはないけど)と、あと水筒は持ってこれたんだし!」

「それはそうだけど…でもそれじゃあこれからどうするのよ!?」


私は少し考えてから言った。


「…このまま家に帰る☆」

「はぁぁぁぁああ!?」


「あなた水着でしかもレンタルので家まで帰るって言うの!?遠いのに!?」


思いっきり私の肩を掴み揺さぶりながら訴える殺女ちゃん。


「ほ、ほら水着はたぶん別の日に返せば大丈夫でしょ?距離は遠いけど私たちの体力なら持つだろうし水筒もあるから水分補給だってできる。水着姿で帰るのは…えっと…羽織ものあるし我慢して?ね?」


手を合わせてウィンクしてみせる。


「絶っっ対!嫌よ!…亜流…!」


わなわなと震えてから声を張り上げた。


「覚悟なさい!!」

「望むところだ!!」


「「えぇぇぇええ…」」


そして再び戦闘モードに入る。


「お、おやめ下さい、お客様!」

「店員さん…残念ながら戦闘モードの亜流ちゃん達には全く聞く耳がないと思います。」

「ええ、そうね。だって二人は…」



「「ライバルだもの!/だもん!」」



戦いを繰り広げている間にかき氷が溶けてしまったのは言うまでもない。



To be continued...